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N先生とカラヤン


20代のころ高校地歴の非常勤講師をしていた私。世界史の授業で産業革命による変化を説明するときに、ピアノを取り上げようと思ったことがありました。


私はそれまでクラシックをたしなむということはなく、自分でCDを買ってみたいと思ったことがなかったのですが、授業で取り上げるからには実際に良さを理解していなければと、

まずは5枚ほどのCDをレンタルしました。クラシック音楽をそれまでの人生で初めてといっていいくらい真面目に聞いてみると、最初の4枚は引き寄せられるものがなかったのですが、ベートーベン集の一枚の中の冒頭3曲。これはまた聞きたいなと感じたのです。


「こんなことがあったのですが。」と翌日職員室で先輩のN先生に話すと、「指揮者はだれなの?」との返答。さっそく確認をしてみるとカラヤンという人でした。

「カラヤンは有名ですか?ぜひコンサート行ってみたいのですが。」と頓珍漢なことを聞いてしまった私にその先生は、「あんたあほか!とっくに死んでるわっ!」と一喝。


「残念だ~生で聴いてみたかった~」と嘆く私にその先生は、「しかし、普通は有名なカラヤンだから。ということで選んで聴くという順番なんだけど、あなたの場合は”いいと思ったものがカラヤンだった”という、まあ普通ではない入り方をしてきたんだね。」と優しくフォローを入れてくださいました。


今度はカラヤン縛りでCDをレンタルして聴いてみると、全曲自分にとっては心地いいもので、「なんだ、自分はカラヤンが好きなんだ。いいと思ったベートーベンの3曲も、カラヤンだったからいいと思ったんだ。」と自己確認ができました。


N先生は英語担当の非常勤講師でした。自分のお給料は、応援しているアーティストを追いかけて全国を駆け回るためにほぼ消えていくという生活をされていらっしゃいました。旦那様がしっかり稼いでいらっしゃるという強みを生かして。


「野狐禅 (フォークバンド)いいよ~。萩原先生もいってライブみれば~」と嬉しそうに語られていました。


大物芸人が自身の映画に起用をし、「才能がある人は認められていないと…」と涙ぐんで語ったことで一躍脚光を浴びた竹原ピストルという人がいます。その記事がでて、「竹原ピストルって誰だ?」と検索をしたとき、「ふつうは、この記事を見たからライブに行ってみようではないですかね。。。」とN先生の目利きの素晴らしさを思い知らされることとなります。竹原ピストルは野狐禅を解散し、ソロ活動を始めたミュージシャンなのです。


文:初音制作 萩原 達也

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